本当に大切な作品は、観終わった後も生き続ける。劇中のセリフや、シーンがそれぞれの日常に溶け込んで、いつのまにか心の一部になっている。『いつ恋』はきっと、そんなドラマの筆頭だ。
東京を舞台に、6人の若者の運命が交錯し、それぞれが痛みを抱えながら、もがきながらも幸せを探して歩んでいくさまを描いた群像劇。
『最高の離婚』の脚本家・坂元裕二が描き出す、日常に転がる哀しみや切なさ、願いを一見関係ないテキストに混ぜ込んだ「遠回しな切望」。有村架純、高良健吾、高畑充希、西島隆弘、森川葵、坂口健太郎といった若手実力派が体現する「痛苦しい純心」。
月9には珍しいシリアスなテイストの本作は...
本当に大切な作品は、観終わった後も生き続ける。劇中のセリフや、シーンがそれぞれの日常に溶け込んで、いつのまにか心の一部になっている。『いつ恋』はきっと、そんなドラマの筆頭だ。
東京を舞台に、6人の若者の運命が交錯し、それぞれが痛みを抱えながら、もがきながらも幸せを探して歩んでいくさまを描いた群像劇。
『最高の離婚』の脚本家・坂元裕二が描き出す、日常に転がる哀しみや切なさ、願いを一見関係ないテキストに混ぜ込んだ「遠回しな切望」。有村架純、高良健吾、高畑充希、西島隆弘、森川葵、坂口健太郎といった若手実力派が体現する「痛苦しい純心」。
月9には珍しいシリアスなテイストの本作は、貧困や震災、孤独といった題材を描きながらも、その向こうにある微かな幸せを見つめる。
運送会社で働く「引っ越し屋さん」、彼に救われた介護士の女性、彼に依存する幼なじみと悪友、年上の恋人、やがて恋敵になる御曹司。この作品に登場する人物は、皆何かを諦めている。ある者は将来や自由を、ある者は夢を、ある者は恋を。いかにも作り物な、表面的なキャラ付けは皆無で、街に出れば歩いていそうな普遍性、つまり視聴者の私たちと同じ人間を描いている。
誰しも、理想と現実の狭間で苦しみ、なんとか折り合いをつけて日々を過ごしている。ただそれでも、幸せを諦めることだけはどうしても出来ない。このドラマは、キャラクターの中にある、取り繕っても隠しきれない想いが弾けるとき、観る者の感情を揺さぶる構造になっている。
例えば、本作で大きくブレイクした高橋一生演じる主人公の先輩・佐引。都会に染まってしまった利己的なズルい男のように見えて、誰よりも苦しんでいる。そんな彼の本音が明らかになるエピソードは、多くの視聴者の胸を震わせた。
高畑充希演じる主人公の恋人・木穂子が、隠していた真実をメールで明かすシーンも切ない。「わたしは新しいペンを買ったその日から、それが書けなくなる日のことを想像してしまう人間です」という独白に、共感した方も多いはずだ。
主人公の1人・練(れん)が絞り出すように語る「人身事故がありましたっていうアナウンスがあって。そういうときに隣にいた人が、普通の人がチッって舌打ちするのが聞こえるんです。電車何分か遅れるから。そういうの聞いたとき、何か、よく分かんない気持ちになります」というセリフは、都会で生きていく中ですり減っていく真心を的確に表している。
放送時に大いに反響を呼んだのは、6人が勢ぞろいした食事会のシーン。小夏(森川葵)の「うわべばっか楽しそうなふりして、嘘ばっか」という鋭い指摘で、それぞれの感情のダムが決壊してしまうさまは、いつ観ても心痛だ。
本作の主軸はラブストーリーであり、恋の名言も多い。「付き合ってるには二種類あるんだよ。好きで付き合ってる人たちと、別れ方がわからなくて付き合ってる人たち」「用があるくらいじゃ来ないよ。用がないから来たんだよ。顔が見たかっただけですよ」など、はっとさせられると同時に、「分かる」と強く同調してしまうものばかりだ。しかも、作品全体を通してではなく、毎話毎話心に染み入る言葉たちが登場する。
繊細な演技と名ゼリフに彩られた本作は、私たちの心に寄り添い、生活をほのかに照らしてくれる。冒頭に述べたとおり、観終えた後も終わらない。何ヶ月後か、ひょっとしたら何年後か、いつかこの温かみを思い出して、きっと泣いてしまうだろう。ずっと色褪せることのない、愛にあふれた手紙のように。