この冬、一番熱い男が『テセウスの船』にいる。彼の名前は田村心(しん)。演じているのは竹内涼真だ。
心の人生は、生まれたときからハードモードだった。警察官の父親・佐野文吾は、平成史に残る「音臼小無差別大量殺人事件」の犯人とされており、死刑判決が下っている。心たちは加害者家族として後ろ指をさされ続け、ずっと息をひそめて生きてきた。唯一の理解者だった妻は幕開け早々に息を引き取り、心は生まれたばかりの娘と暮らすことに。守るものが出来た今、父親と向き合うことを決めた心が事件現場の音臼村を訪れると、なぜか事件直前の30年前にタイムスリップしてしまう。ただいま佐野の過去を変えるべく、妻が残してくれた事件ノートを片手に絶賛奔走中だ。
しかし田村心という男、悲しいくらいに過去を変える適性がない……っ!過去を変える適性ってなんだよと思うかもしれないが、たぶん、私の方が竹内涼真より過去を変えるのに向いていると思う。そもそも、心は昔のことに疎すぎるのだ。30年前の人々の会話に全くついていけない。「息子と同い年だね。息子は“まさこちゃん”のファンだったけど、君は?」と聞かれて、思わず言葉に詰まる心。いやもうそれ絶対森昌子だよ、夏目雅子もあるかもしれないけどその流れは間違いなく森昌子だよ。そこは世代じゃなくても“百恵ちゃん”くらいは答えられるだろうし、なんなら森昌子でも良かったよ。更に驚いたのは、一話ラストで心と佐野が温泉に入っていたときのことだ。一件落着し、リラックスしたのか何故か口笛を吹き始める佐野。その曲は、心が子供の頃から聞きなじみがあった曲と全く同じものだった。「その曲って……」と目に涙をためながら心は尋ねるのだが、誰がどう聞いても「上を向いて歩こう」である。昭和の名曲どころか平成生まれも間違いなく知っている日本の名曲「上を向いて歩こう」だ。なんなら去年の紅白でHey!Say!JUMPが歌っていたよ!
佐野に未来人であることをあっさりと打ち明けた心だが、予想以上に過去を変えることに苦戦している。起こるはずだった事件が起きない!やっぱり人が死ぬ!なぜか心が疑われる!ノーマークだった人が突然死ぬ!!これから起こること全てが書いてある事件ノートという名の便利グッズを持っているのになぜ……!?ここまで来ると、むしろ心は何だったら出来るのだ、誰ならば救えるのだと思ってしまう。
製作陣の意図とはズレていそうだが、自分の正体を明かして便利グッズを携えているにも関わらず、全く思い通りにいかない竹内涼真が毎週ほほえましい。瞬く間に次から次へと事件が起こるので(しかも防げない)、例の事件が起きるより先に、竹内涼真の血管がぷっつり切れてしまわないか心配だ。この冬、一番熱い男・田村心もとい竹内涼真から、しばらく目が離せそうにない。