人々の善意に基づき、人と人との繋がりの尊さと美しさを、一人ひとりにとっての小さな幸せを、優しく、温かく、丁寧に描いた上質の会話劇。
目指すところはそういうことだったんだろうと思う。
そして部分的には成功してたと思う。
タイトルロールである“姉ちゃんの恋人”・林遣都の演技はこの上なく素晴らしかったし、芸達者な演者さんたちが演じる、主人公・桃子をとり囲む温かい世界にホッコリさせてもらえる場面も多々あった。
だがしかし。
いかんせん、肝心の “小さな幸せ” に至る過程に納得がいかなさ過ぎた。
元カノ事件、全方向的に あん?ってとこが多すぎた。
仮にも結婚まで覚悟したほど愛する人が無実の罪に問われ、社会に叩かれ、懲役まで受けて家庭崩壊しても、“世間様”の声を恐れて“被害”を隠す???
キモチはわかる(私と考え方は違うけど、理解する)。その恐怖もわかる。
そして彼女はあくまでも事件の被害者であり、最も責められるべきはあのふたりのクソ男どもであることを忘れてはならない。
それでも、だ。
なにがイカンって、結局この物語が
「ちいさな幸せのため、“世間様のご意見”を大切に、仲間と、身内と、肩寄せ合って生きていこう」
「愛する人を守る目的で払う自己犠牲は(たとえそれが嘘であっても)美しい」
この価値観を基盤としたままエンディングを迎えてしまったことだ。
「レイプされたことは恥である」という概念のもと、真人の“善行”を“善行”のまま終わらせてしまったことだ。
違うやん。
誰か。
誰でもいいから言ってやって欲しかった。
「被害にあったことは断じて貴女の恥ではない」
「理不尽な暴力に対し手を尽くして自分の身を守ることは正当な権利であり、勇気をもってそれを為すことが結果的に貴女の周りの大切な人々を守ることになる」
「だから前を向いて、何も恥じるな。本当の意味で自分を守れ」
「罰せられるべきは、“悪いことをした人間”なんだ」
って。
あのクソ男ふたりが被害者ヅラしたまんま、
最終回のヤカラふたりにお咎めがないまんま、
“愛する人を守れた”“優しい世界で支え合って生きていこうね”って言われても、無理なんです。もうホント無理。
そんな世界、優しくもなんともないし、きっと私は幸せにはなれない。
大好きな作品を多く生み出した脚本家さんで、たぶん期待しすぎた面もあったし、キャスティングも素晴らしくて事前にテンションがアガりまくってたことは確か。
でもそれを抜きにしてもちょっと残念な物語になってしまったなと思わざるを得ない。
真人の事件に偏り過ぎて、肝心の桃子ちゃんの心の傷に殆ど触れる時間もなく、 “そのままで、少しずつ” で終了してしまったのも物足りなかった。
「男は黙って出されたものを全部食え」
「弟の彼女だから家の手伝いをして(家族に対して)点数稼がなきゃ」
っていう価値観にも、正直、馴染めなかった。
(全体的に、描かれている社会の価値観が前時代的なものな気がした)
会話劇を謳いつつ、凝ったセリフが妙にリアリティに欠けることも多かった。
(「恋人になってください」「恋人になってくれることになりましたー」って言わないよね…「彼氏」だよね…まあ、タイトルだから…恋人恋人言いたいキモチもわかるけど…)
(家族会議のセリフ、なんか他人行儀でよそよそしいよね…)
(勤務中にこの会話してる職場、仲いいね~って以前にモラハラパワハラだよね…)
(あと、殴られてる最中に「大切な人なんです」って叫ばないよね…)
(などなど)
(書いてて悲しくなってきた…)
推しは素晴らしい演技をしてて、プレイヤーとしての技量をいかんなく発揮してたと思う。
最初はぎこちないな~と思っていた髙橋海人くんがどんどん馴染んでいって、終盤は姉ちゃんへの想い溢れるその渾身の演技に泣かされるまでになった、その過程も楽しかった。
あと、奈緒ちゃん素晴らしかった。
テンプレなフラグの回収も少なくて、何も起こらないことが逆に意外性に繋がったり、面白い要素はたくさんあったので、本当に勿体なかったなあと思う。いや、素直に涙した場面もたくさんあったんですよ。
脚本って、本当に大事なんだなあ って、しみじみ思った1本でした。