次にドラマの感想を書くならば、『G線上のあなたと私』にしようと決めていた。2019年秋ドラマの中で1、2を争うほど好きな作品だからだ。
寿退職間近に婚約破棄をされて無職になった28歳の也映子、旦那の浮気が発覚した46歳の幸恵、兄の元婚約者を好きになってしまった19歳の理人。年齢も立場も、置かれた環境も違う3人は「大人のバイオリン教室」で出会う。也映子たちはバイオリン界の“何か”を目指しているわけではない。ただ、ゆるっと、ふわっとバイオリンを習う。それが「大人のバイオリン教室」だ。
第8話では、3人の目標だった“3コン(3人のコンサート)”がついに開催される。一年半の成果を見せる待望の場だ。
今までいろいろなことがあった。何にも打ち込めるものがないと嘆いていた也映子は、ついに就職先が決まった。姑の理解を得た幸恵の世界は少しずつ広がり、理人は眞於への思いに区切りをつけた。肝心のバイオリンに劇的な進歩はないけれど、バラバラだった3人の音は一つのメロディーになっていた。ときどき聞こえる擦れるような音さえも、3人のこれまでを見てきた視聴者からすると愛おしい。
3コンの最後を締めるのは、也映子たちを引き合わせてくれた楽曲「G線上のアリア」だ。前回のコンサートに出演できなかった幸恵が涙ながらに口にする「ありがとう」に、なんだか胸がいっぱいになった。ここがクライマックスだと言わんばかりの盛り上がりで、今日が最終回でも良いと本気で思った。しかし、今作の恐ろしい点は【本日の山場だと思っていた場面が、実は折り返し地点に過ぎなかったこと】である。時計は22時30分。これは確実に、も う ひ と 山 く る。
幸恵からマイクを渡された也映子は、戸惑いつつも喋りはじめる。今日、ここに来られなかった人のことを。3コンを一番見てほしかった、眞於先生のことを。
「でも、あの時、真っ暗な海に放り出されたみたいだった私たちに、唯一投げられた浮き輪みたいに、このバイオリンが、私たちをギリギリのところで救ってくれました」
困った。エンディングテーマが流れる中、私は漠然とした気持ちでいた。ドラマ感想はよく書いてるのに、今日の感想は必ず書こうと心に決めていたのに。見終わった自分の気持ちを上手く言葉にすることが出来なかった。だけど、この作品の良さは、作品を見れば必ず伝わる。改めてそう思った第8話だった。
残すはあと2話くらいだろうか。何者にもなれないと思っていた自分たちの音楽が、大切な人を救った。今夜起こった奇跡のような出来事を、あの3人がどこかで知ってくれることを願う。