毎クール、ラインナップに入る人気ジャンル『刑事もの』。しかし『ON』は、そのジャンルからはみ出した異端のドラマだ。画期的ともいえるこの作品について、紹介したい。
『ON』がこれまでの国内ドラマとは異なる部分は、大きく分けて以下の3つ。
①主人公が犯罪者側の刑事
②地上波とは思えない強烈な事件
③海外ドラマからの強い影響
まず、①について。
主人公の新人刑事、藤堂比奈子(波瑠)は、殺人犯が人を殺害する心理に非常に興味を抱いている。自身も“あちら側”の人間であり、毎日家を出る前に「スイッチON」をして普通の人間のふりをする、というルーティンを行ってから通勤している。
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毎クール、ラインナップに入る人気ジャンル『刑事もの』。しかし『ON』は、そのジャンルからはみ出した異端のドラマだ。画期的ともいえるこの作品について、紹介したい。
『ON』がこれまでの国内ドラマとは異なる部分は、大きく分けて以下の3つ。
①主人公が犯罪者側の刑事
②地上波とは思えない強烈な事件
③海外ドラマからの強い影響
まず、①について。
主人公の新人刑事、藤堂比奈子(波瑠)は、殺人犯が人を殺害する心理に非常に興味を抱いている。自身も“あちら側”の人間であり、毎日家を出る前に「スイッチON」をして普通の人間のふりをする、というルーティンを行ってから通勤している。
彼女の中にある「正義」というのは非常に曖昧で、見た目は「刑事」だが心は「殺人犯」に近い。このキャラクター設定は非常に珍しく、「悪徳刑事」でも「トラウマを抱えた刑事」でもなく、「サイコパスな刑事」というヒロイン像は、観る者を常に不安な気持ちにさせる。この設定に加え、波瑠の無機質な演技が非常に効いている。
主人公のダークな性格に付随するのが、②の事件だ。『異常犯罪捜査官』というタイトルからしてちょっと身構えてしまうのだが、想像以上にエグい。第1話は、刃物で下半身を切り刻まれた元性犯罪者の死体が出てくる。第2話は全身を凍結された死体、第3話はバラバラ死体、第6話には大量の100円玉が口に突っ込まれた死体……。
地上波でここまでやって大丈夫なのか!?と心配になるレベルだが、そのぶんミステリーやサスペンスは増し、同時に本作のテーマである「なぜ人を殺すのか?」という疑問に対する追求も深まってゆく。ただ殺すだけでなく、1つのアートのように飾り立てるのは何故か? この異常性を考えてゆくことが、観客から遠いところにいる主人公・藤堂への理解にもつながるのだ。
ここでキーパーソンといえるのが、林遣都が演じる心療内科医・中島保だ。彼はプロファイリング能力に優れており、犯罪に焦がれる藤堂の理解者にもなってゆく。彼が犯罪者の心理を紐解くことで、それぞれの心の闇がつまびらかになってゆく展開は秀逸だ。
その際の推理シーンだが、ここには『SHERLOCK』や『HANNIBAL』からの強い影響が感じられる。現実はそのまま、犯罪シーンが立ち上がる演出、トリッキーなカメラワークなどは世界中にフォロワーを生んだ『SHERLOCK』に通じるし、猟奇殺人の置き方・見せ方は『HANNIBAL』を彷彿させる。国内地上波ながら、ワールドスタンダードなドラマでもあるのだ。
『セブン』『羊たちの沈黙』『ボーン・コレクター』など、サイコロジカルスリラーは洋画好きにとっては非常に興味をそそられるジャンル。『ON』はその文脈に連なる作品であり、非常に挑戦的なアプローチを選択した意欲作だったといえるだろう。
未見の方は、ぜひチェックしていただきたい。