父とのやり取りを通して、ますます父母が何故別れてしまったのか納得のいかなくなる武志。八郎の話からは溢れる喜美子への愛情と理解しか感じ取れなかったからだ。「なんで別れたん?」と改めて息子に問われる喜美子。しかし、息子に襟を開いて話す八郎に対して、喜美子は自分の本音を打ち明けようとはしないのが印象的な対比である。
しかし武志が「3人の、食卓は気まずい」と言った途端、喜美子は振り切った行動に出る。八郎に対して「名前で呼び合おう、これからは意識せず普通にしよう」と迫り「触ってもなんとも思わない」と言いハグをするのだ。
はじめに「名前で呼び合おうや」と言ったとき、喜美子はとうとう自分の本音を言うのかなと思った。しかし文脈を追ってみると違った。喜美子の言う「普通にしよう」とは「特別な感情をないことして、なんとも思っていない振る舞いをしよう」という、素直になるどころかさらに深く自分の気持ちに蓋をする提案だったのだ。
そっちじゃないよ、喜美ちゃん!!
息子の気持ちを受け入れ素直に本音を語る八郎に対して、あくまでも頑なに認めない喜美子の態度。その姿を見て、おそらく自分でも蓋をしている認識はないのではと感じた。幼い頃から自分のやりたいことを飲み込んできた喜美子は、自分の本音と向き合うことが上手くできないのだ。あんなに没頭していた穴窯ですら、思えば最初に「力をつけてからいつかやる」と言っていたのを、八郎に丁寧に気持ちを聞き出してもらって、初めて穴窯に向き合えたという描写もあった。
喜美子には半ば病的なまでの「本音と向き合うのが恐ろしい」という思いがあるように感じる。しかし恐ろしいのは失うのが怖いから。欲しいと言う思いを自覚してしまうと、手に入れられなかったときに、現実がより一層辛くなるからである。
つまり喜美子の頑なさは、再び八郎に手を延ばして、もしも拒絶されたら、うまく行かなかったらという思いの強さの現れでもある。それは裏を返せばそれだけ八郎を痛烈に思っているからに他ならない。
今までの喜美子ならば自分に嘘を付き通せたかもしれない。しかしハグのときの複雑な表情と、消える音楽…と気になる余韻を残して今日の回は終わる。
自分に蓋をし続けるのか、それとも自分の思いと向き合え、素直に思いが解き放てるのか。そして、また八郎は喜美子の思いを聞き出すことができるのか。
明日の展開が待たれる。