このエピソードを観るまで、なぜサクラが昏睡状態に陥る「必要」があったのか、今ひとつ納得できないでいた。
1話で1年という設定の面白さを活かすために、ご都合主義で主人公を不幸な目に合わせたのか。だとしたら可哀想すぎる……
だが今回、『同期のサクラ』は明確な答えを見せてくれた。全てはここで『浦島太郎』をやるためだったのだと。
本作は、真っ直ぐすぎるヒロインが周囲の悩める人間を救う物語だ。前半は各話で1人ずつ仲間を助け、友情を育んできた。
しかし後半、第8話ではサクラが心身を病み、仲間たちが助けようとするも拒絶されてしまう。つまり、逆転の構造が起こらない。しかし粘りに粘ってサクラを助けたのち、ハッピーエンドとなるはずが更なる試練が降りかかる。サクラが事故で昏睡状態に陥るのだ。
サクラが眠っている間、同期の仲間たちは金銭面で援助を続け、サクラは奇跡的に目を覚ます。そして第9話。ここでもハッピーエンドとはならない。現実は歓迎なんてしてくれず、容赦なく彼女を冷遇する。仕事は見つからず、せっかく復活したのにつらいことばかり。そして決定的な哀しみがサクラを襲う。
同期の仲間たちは、サクラが眠っている間に成長してしまっていたのだ。彼女のアドバイスを待たずとも自分たちで解決できる人間性を備えていた。
サクラはただ戸惑い、自分の居場所がなくなってしまったと確信し、地元に帰ろうとする。これこそが、サクラを昏睡させた理由ではないだろうか。つまり、サクラと仲間たちは同期でありながら、9ヶ月のズレ(引きこもり期間を入れると数年)が発生してしまったことで力関係が崩れるということ。これはある種の「サクラに助けてもらう」依存状態からの脱却であり、サクラが感じていた「アドバイスを与える」心理的優位性の崩壊だ。
同期たちが先輩になってしまった事実。
それはサクラに新たな試練を与えるが、同時に同期がサクラを救う舞台が整ったと観ることもできる。
サクラを追い越した同期たちが、サクラを全力で救おうとする。第9話の後半は、全てがこれまでのセリフで集約された集大成。仲間たちの、サクラへの恩返しが描かれる。
実に見事な、構造的な伏線回収だった。