土曜ドラマ『おっさんずラブ in the sky』 を初回から見ている。
私が生まれて初めてTwitter垢を作り、イベント遠征し、グッズにオニ課金し、大袈裟でも何でもなく正に“人生を変えられた”ドラマ『おっさんずラブ』。そのタイトルを引き継いだ上で、「全く新しい別ものドラマ(公式談…まずココについて言いたいことテンコ盛りだが とりま置いとく)」という触れ込みの新シリーズだ。
今のところ第4話までが放送されていて、5話予告で主人公・春田創一が想いを寄せる後輩の唇を無理やり奪うという衝撃?シーンが流されたことでTwitter上そこそこの盛り上がりを見せている。(視聴率、視聴熱、メディアの盛り上がりについては今のところ右肩下がり)
このドラマが始まるに当たって巻き起こった”927ショック(委細については各メディア等でも種々取り上げられている通りなのでここでの詳細は省く)”の際、いわゆる「天空不動産箱推し民」だった私は、悶絶キリモミ大号泣の挙句、「これを作るためだったか!そりゃ仕方ねえ!」と納得させてくれる素晴らしい新作…その”納得”をもって当時の地獄の責め苦から私を救い出してくれる新作の降臨を願うという境地にまで達していた。
次の春田創一がまた自分をこの美しい世界に埋没させてくれることでしかこの喪失感は拭えない。そしてきっとそんな新作を、あの制作チームなら作ってくれる。そう縋った。
だがしかし。
そんなことを姑息に考えていた私の甘い厨二脳は11月2日初回の放送開始僅か5分で木っ端微塵に粉砕された。チリトリで雑に掻き集められたのち焼却炉で燃やされ、その灰は羽田?成田?空港のトイレに流された。
???????
なんだこれは???
今私が見せられているこのチカチカピンク色の画面とガチャガチャせわしない音。
これはなんだ???
今目の前の画面で
何が起ころうとしている???
途中記憶が飛びそうになるほどの混乱の中、正に一瞬で第1回放送は終わり、その後あちこちのDMグループで数多OL民の凄絶な阿鼻叫喚が朝まで繰り広げられた。
…そしてそこから早や4週間。
状況は何ら変化することなく、現在の私は この薄っぺらい、ただただ浅くて薄っぺらい、「萌えシチュエーション(と公式が思い込んでいるもの)を無理クリ繋ぎ合わせたら結果こんなんなりました〜✨ ね?萌える?滾る?」的映像が、奇跡のドラマ、ドラマ史に残る名作と言われた前作を灰塵に帰してまで作りたかったものなのだ、航空会社という一見ファビュラスなタニマチを得てウキウキやりたかったことの全てなのだという受け入れ難い現実の前に、衝撃を通り越して虚無の世界の住人である。
コントで使われていそうな陳腐な定番セリフと前作セルフパロディのパッチワーク。コントったってキングオブコントでもファイナリストなら今ドキ絶対使わないレベルの陳腐さである。会っていきなり好き好き大好きの大迷路。脈絡と過程と心理描写を全て取っ払った画期的な物語進行の中でそんなキュルンキュルン切ない顔されても私たちどうついてったらいいのか分からないんですけど!のキリキリ舞い。
この際、役者に罪はカケラもない。ばーちーのスプーン咥えは変な声が出るほど可愛いしピアノのシノさんはうっとり美しい。けれどそれはワクのないパズル…美しいけれど、絵柄も材質もバラバラな不揃いのパズルをチカラづくで継ぎ接ぎしようとする無理ゲーのピースでしかないのだ。それを見せられるTVの前の私は、阿弥陀如来の印を結びつつ結跏趺坐の境地である。
何故に、どんな事情があってあのキラキラ生き生きと作品作りをしていた奇跡の制作チームがこんな無間地獄に迷い込んでいるのかはわからない。彼らとてサラリーマンの集団、フリーの立場のスタッフなら尚更だ。脚本家・演出家なんてそれこそ下請け業者の筆頭なんだもの。外部がどんな現象の断片を拾って考察合戦を繰り広げてもそれが推測の域を超えることはない。渦巻くカネと見栄としがらみの世界は一つの理屈で定義付けられるほど単純ではなく、闇は地獄のように深い。
ああ怖い。
だがしかし、そのへんのことは最早どうでもいい。覆水は盆がどんなに頑張っても帰れない。ビショビショのまんま、そのうち乾いて消えるのだ。
じゃあそんな責め苦の世界にわざわざ毎週土曜の23時15分、ヒーヒー泣きながら身を投じるなんてバカなことやめときゃいんじゃね?というのは無論正論である。ごもっとも。全くもってその通り、反論の余地は1ミリもない。
だけど私はこのドラマを見る。血が滲むほどクチビル噛み締めながら、毎週リアタイでこの作品を見続けるという愚行を繰り返している。
何故か。
もうその理由は単純にただ一つ、『おっさんずラブ』というタイトルと『春田創一』。愛してやまないこの”名前”を人質に取られたという妄執に他ならない。今やただただその一点のみである。
名前。
存在の証明。
そこにあるものを分類し表現しそこに命を与える文字。千と千尋も言ってたじゃん(言ってない)。名前の呪縛は恐ろしい。
あの画面の中で七転八倒しているかの人の名前が「春田創一」である限り、私はこの呪縛から逃れられない。見届けねば、春田創一の死に水は私自身が取って見送らねばという、愛という名のもとの狂気である。自分でわかっとるんだてそんなもん。これを人質に召し上げた公式の極悪非道を、私はきっと一生許せない。許したいけど許せない。
そして、その春田創一という名の呪縛に、一視聴者である私なんかよりもずっとキツく、というか最も強く深く、食い込むように絡めとられているのが他ならぬ主演俳優の彼だろう。
前作『おっさんずラブ』の春田創一が奇跡の「愛されキャラ」として多くの視聴者を虜にし、そのパートナーとなる牧凌太と共に日本ドラマ史上に輝くベストカップルとなった事実に異を唱える人は多くないと思う。
これが春田創一という冠のもとに今後、俳優・田中圭が背負わされる十字架なのだとしたら、これほど残酷なことはない。
数々のドラマアワードを総舐めにし、雑誌の表紙を飾り、広く世間が彼の実力と才能に刮目させられる端緒となった前作を以て「勝ち逃げ」出来ていれば…そんな無念は察するに忍びないけれど、こればかりはもうどうにも取り返しがつかない。フランクフルトへ連れ去られた”春田創一”をアルムの森へ連れ戻すことは叶わない。ノリノリではしゃぐおんじに首根っこを掴まれ、インザスカイは離陸してしまった。
結果、
大好きな俳優さんばかりが集まる夢のラインナップで、それぞれのフルネームを暗唱出来るほどその仕事ぶりを尊敬していた奇跡の制作チームの元、潤沢な資金で作られる『おっさんずラブ』が、まさかの稀代の大駄作!という引田天功もびっくりの超絶イリュージョンである。こんなもん滅多に見られるシロモノではない。
人の世は恐ろしい。
湯婆婆の呪いはまだ続く。
次は物語の佳境ともなる6話から
かのミュージカルスターを投入、
終盤にも関わらずそこから新しく親友・ライバルとなりワチャワチャが展開するんだそうだ。色即是空。視聴率が爆上がることをお祈りしております、心から。
私はと言えば、今はただ、潰れた心臓と、遥か下水を流れ去り今や処理場の沈殿物と化した厨二脳もそのままに、火葬場から立ち昇るイリュージョンの最後の一筋を見届けるべく薄目で末期の刻を待っている次第である。
無念、極まりない。