1話約30分。だが、近年最も鳥肌が立ったドラマだ。底知れぬほど恐ろしい。
ある秘密を抱えた夫婦の元にやってきた子守りの女性。住み込みで働くことになった彼女は、口数も少なくどこか怪しい……。第1話の冒頭は、こんなシーンから始まる。『パラサイト 半地下の家族』でもそうだったが、家庭内に他人が入り込む気味の悪さがじっとりと描かれ、明らかに嫌なことが起きそうな「予感」が観る者をゾクゾクとさせることだろう。
予告編にも描かれているため書いてしまうが、夫婦の秘密とは、妻が病気だということ。生後間もなく子どもが亡くなってしまった現実を受け入れられず、人形を赤ちゃんだと思い込んでいる妻。セラピーの一環だというが、哀愁を誘いつつもそこはかとない怖さが続く。人形を必死にあやす妻がいたたまれなくて見ていられない……。傷心の夫は、妻を治したい気持ちと彼女の秘密を隠したいという想いから、子守りを住み込みで雇うことにしたのだ。
つまりこの時点で、正常:夫&子守 異常:妻 の関係性が成立する。はずだったのだが……子守の女性はうろたえることなく「大丈夫です」と答え、妻が仕事に出ている間も本当の子どものように接する。自宅が職場である夫は、子守の女性が次第に恐ろしくなっていく。当てが外れて 正常:夫 異常:妻&子守 という関係性に変容するとき、この作品の本性がゆっくりと顔を出し、スリラーがホラーへと移行していくのだ。
本作を作ったのは、『シックス・センス』のM・ナイト・シャマラン。製作総指揮と2エピソードぶんの監督を務めている。静かな映像の中にビクッとするシーンを入れてくるなどスリラーの名手だったが、彼が手掛けた作品の中でも洗練度という点では群を抜いている。
上に挙げたような「え、嘘」となる演出のうまさに、『へレディタリー』のようなトリッキーな近代ホラーの演出を混ぜ込んでいる。注目すべきは、何と言ってもカメラワーク。かつてデヴィッド・フィンチャー監督は『パニック・ルーム』で家の中を画期的な映像で表現したが、本作では「機械的に横移動するカメラ」「明らかに意思をもって蠢くカメラ」など、予測のつかない動き(機械っぽさと生っぽさの融合も気味が悪い)をすることで、観客に一切安心する隙を与えてくれない。
ちなみに、撮影監督のマイク・ジオラキスは『イット・フォローズ』『アス』も手掛けた人物。いずれも、スリラーとホラーがミックスした作品であり、映像が非常に重要な役割を担っている。シャマラン監督とも『スプリット』などで組んでいる。映像フェチ的には、それだけで観る価値がある作品だということがわかるだろう。
ものすごく面白いドラマであることは明白だが、映画好きとしてもたまらないメンバーがそろっている。ちなみに、妻の弟を演じているのは『ハリー・ポッター』シリーズのロン役ルパート・グリントだ。
あくまで僕個人の感覚だが、Apple TV+の圧倒的パワーを痛感させられた大傑作。ご興味のある方は、是非チェックしてみてほしい。