これだけOLOL大騒ぎして生きていると、周囲のリア友に「で、おっさんずラブって結局なに?どんなドラマなの?」と聞かれる機会は少なくない。
そんな時、あーだこーだと言葉を連ねるよりも(連ねても結局言葉で伝えるのはムリよりの無理)まずそっと差し出す1枚のお皿。
それこそが、私がこの1年半神棚に掲げ続け朝晩の礼拝を欠かすことなき(嘘ですゴメンなさい)神回、日本ドラマ史をひっくり返す究極至高の第2話「けんかをやめて」である。
シャワーキスの衝撃とともに、なんだろう、何がこんなに私の胸をウズウズもやもやとササクレ立たせるのだろう…という悶々を残して終わった第1話。
今度こそ録画準備も万端に、正座待機で迎えたこの第2話回が終わった時、私は従前に抱えていたこの疑問を遥か後方に置き去り、泣きながら大気圏を突き抜けてシュパーーーーーーンと青い空を飛んでいた。
ヒィヤアアアアアアアア!!
そゆことおおおおお!!
ええええええ!?
ナニこのドラマ!!!!
すーーきーーーーーー!!!!!
いいいいぃぃぃぃぃ…(エコー)
そして ふわふわキラキラの甘い高揚と きりきりズクズクな切ない痛みとのダブルエンジンでキリキリ地球を周回したのち 炎を噴きながら墜落した先は、2度と浮上の叶わない、遙か深くの沼の底だった。
それからずっとここにいる。
とにかく。
おっさんずラブの全てが凝縮されている2話。
うわ!これはマジでとんでもないものに出会っちまった!という、
そのとんでもなさの全ての発露が、2話には これでもか〜まだ行くでぇ〜とギュウギュウに詰め込まれている。以下、片っ端からそのトンデモポイント、見どころを挙げてみる。
・シャワーキスを自ら冗談ですよと言う牧くんの切なみMAX「早く行けよ!」
(たった今この瞬間まで可愛さ青天井だった春田なのに この“男同士でキスとかマジでねえから”の一言で殺意湧いたし ここで牧くんタメ口なのがまた…←泣いている。何回でも泣ける)
・武蔵の口から語られるピュアっピュア過ぎる恋の始まり
(白い鳥とシャボン玉が翔んだこの瞬間に何かのピンが弾け飛び、笑い崩れ、そして私は決定的にこのドラマに堕ちた。シャボン玉、グッジョブ。)
・バトル開始のゴング=伝説のキャットファイト
(「部長に春田さんは守れません」の重み。テレビ史上最高に笑えて最高に切ない修羅場だと思っている。放送終了後に売り出された各種グッズの中で私がまず一番に買ったのは「悪いとこ10個タオル」である勿論である)
・蝶子さん、はるか捜査の顔認証
(名演・吉田鋼太郎)
恋する気持ちの高揚と最高級に上質な切なみをチカラ技のコメディに塗してこれでもかとたたみかけつつ、
2話では春田の人として、社会人としての矜恃も描かれる。
=お爺ちゃんの庭木。
=これから2人で生活していくための家。
春田のこだわりと大切にしたいもの、仕事の有り様を描く中で「はるたん」という人物の愛されるべき所以を示しながら、尚且つ、夫婦とは、パートナーと生きていくとは という問いかけにもなっているというこの物語の二重構造は、マジで見事と言うほかない。
だがしかし、
これまで挙げてきた何よりも彼よりも、
この第2話を「今まで見たことのないとんでもないもの」たらしめ、
おっさんずラブというドラマの真の髄を具現化する大役を担っていた人物は、実は他に在る。少なくとも私はそう感じている。
他でもない 2人のミューズ、
ちずちゃんとマイマイである。
私が1話で持っていた「不思議な違和感」の正体は、この回のちずちゃんマイマイの台詞を受けてやっと私の中にその正体を顕した。
1話、わんだほうでちずちゃんは言う。
「告られた?やったじゃーん!」
「春田が告られるなんて何年ぶり?」
そして愚痴る春田に重ねて聞く。
「社内恋愛が嫌なの?それとも年上だから?」
2話、わんだほうでちずちゃんはまた言う。
「メチャメチャ誠実!」
「玉の輿じゃん」
「私、その部長さんを応援する」
そこに
「男同士?気持ち悪い!」「え〜、ゲイとかヤダあ!」という反応は全く描かれない。
これまでゲイもの(と当初私はこのドラマを受け止めていた)と言ったら、少なからずこうした世間の無理解や葛藤の描写があってはじめて紆余曲折、ストーリーが展開すると思いこんでいた私は、まずここで一発肩透かしを喰らったのだ。
そしてトドメはマイマイが牧くんに放った、それ自体は使い古された、よくある、しかしここでは大きな意味を持つこの一言である。
「好きになっちゃいけない人なんていないんじゃないかしら」
どっぱーーーーーーーーーーーんん!!!
そうやん。
天空不動産もちずちゃんも、誰もそれが特別なこととか思っとらんやん!
(꒪⬜︎꒪) (꒪⬜︎꒪) (꒪⬜︎꒪)
結果、この後この物語の中の登場人物たちは、同性愛や年の差婚、国籍や人種の違いなど様々な社会的に壁のある(と言われている)愛について、さもその壁がないもののように「普通の恋愛話」を受け止めて行く。(ただ2人の例外は「男だからだよ!」と叫んだ春田と「巻き込むのが怖くなったんです」と吐露した牧…当事者2人のみである)
物語が進むにつれ、当初周囲が誰も特別な反応を示さないということに違和感を感じていた私は、自分自身が如何にいろんな縛りや先入観に囚われて世の中を生きているのかを、逆に痛感させられることになる。
ちずちゃんの無垢な反応が私の後頭部を鈍器で叩き割り、我知らず心に抱えていた先入観だの偏見だのを木っ端微塵にお花畑に撒き散らしてくれたのだ。
この“壁のない”世界観に触れた時、「自分の意識ひとつ、心の持ちようひとつで世界は変わって見える」ということに気づかされた私が受けた“目からウロコ感”はハンパなかった。ウロコどころではない。テッパン貼り付いてたんちゃうかくらいのモンである。
ああ、
自分がそう思いさえしなかったら、そのフィルターさえなかったら、世界はこんな風に見えるんだ。こんな涼やかで曇りない景色があるんだ。怖い。先入観怖い。
ちずちゃんはまた、牧くんの「本気で好きなんですよ」の告白を詰った春田に(私のかわりに)元気イッパツ!リストの効いたビンタもお見舞いしてくれた。
かくしてちずちゃんは私にとってこの物語のまさに守護神となりミューズとなった。
このちずラブは今も私の“箱推し”の本質であり、揺るがぬ土台となっている。
そして、
そんなこんなで駆け抜けた いよいよ終盤、
これまで私が見た中で最も美しく潤んだ漆黒の瞳と、すっと上がる革靴の踵。
逆光に浮かび上がる柔らかい輪郭の中、
髪の隙間に優しく触れる唇。
最早そこまでの間に完落ち瀕死状態となっていた私の心臓に、ラスト牧くんの背伸びデコチューという重く抜けないトドメのクサビを撃ち込み、おっさんずラブ第2話は終了した。
深夜12時過ぎ、
「近所迷惑やろ!」と咎める息子の足元で、雄叫び過ぎて喉を潰した私はただただうずくまり、いつまでも咽び泣いていた。
(続く。多分。)