2016年クリスマスの深夜だった。
ダラダラとチャンネルをザッピングしていた私の目に、チラリと一瞬、彼が映った。
あ、田中圭だ。
結構好きなんだよね。図書館戦争の小牧教官?カッコ良かったよねぇ。
そう思ってチャンネルを戻したその瞬間、
橋の上に立っている田中圭に、その向かいにいた赤いダウンの男の子がキスをした。
え?😳
私の脳内がバグったのと同じタイミングで、画面の中の田中圭がうろたえている。
そして次の瞬間、うろたえながらも田中圭が言った。
「へ、平気かも…ちょ、もう一回」
!?!?
自分からキスしようとする田中圭。
からのブラックアウト。
画面にバーンとロゴが出た。
『おっさんずラブ』。
ナニ?
わたし、今、ナニを見た…???
なんだこれ?タイトル?ドラマ???
なんだこれモヤる!!!!
…これが私と、私の運命のドラマ
『おっさんずラブ』の出逢いの瞬間だった。
2018年、その単発ドラマが連ドラになって放送されると決まった時、私はそのことを全く知らなかった。運命の4月21日、面白そうな新番組があるよ、とたまたま息子がチャンネルを合わせていたドラマ。それがこの『おっさんずラブ』だった。
あっ!知ってるよコレ!
見たことある!
え?新番組?再放送じゃなくて?
そこから始まった『おっさんずラブ episode1 〜open the door〜』は衝撃のドラマだった。
まず初っ端からとにかく可愛い。
可愛すぎて我が目を疑うレベルに可愛い。
何が?
田中圭である。
前述の通り、もともと好きな俳優さんではあった。小牧教官しかり、タラレバの丸井さんしかり、上手いし、爽やかな色気のある良い俳優さんだとは思っていた。
だがしかし。
「はるたん」こと「春田創一」はこれまでの田中圭ではなかった。
その破壊力はデカかった。
ケタ違いに、あまりにもデカかった。
なんだこの人。
いつからこんな可愛かった!?
面白かった!?
テケテケ くるくる ジタバタ ふわんふわん
画面の中ではるたんが動き、喋る度にそれを見ているコッチのハートはきゅるんきゅるんのバックバクである。なんだコレ!おい!田中圭!可愛すぎやろ!やめてくれ!(いややめんでくれ!)
この可愛さと街の人に愛されるお人好しっぷり、手を差し伸べずにはおれない無垢なコドモのようなポンコツっぷりに、番組中盤にしてお姉さんは既に完落ち。お手上げ状態である。
そっか〜、こんないい俳優さんだったんだあ
田中圭。
しかもこの田中圭の可愛さに乗っかった吉田鋼太郎演じる黒澤武蔵部長の振り切れっぷりがまたハンパない。
スマホ、パソコンから溢れ出る狂気(隠し撮りはるたん)
タブレット ガリリリッのサイコ味
極め付けは、サスガ日本を代表するシェイクスピア俳優の真骨頂、
ここで全力ですか!?の絶叫告白、
「はるたんが好きでェェェェす!!!」
ハート型ライト煌めく夜の中を走り去る乙女・吉田鋼太郎に、私は滝の涙を流しながら深夜のリビングを転げ回って笑った。同じく向こうから転げてきた息子としこたまアタマをぶつけた。自分はこのまま笑い死ぬのかそれとも脳挫傷で死ぬのか。とりあえず息子とティッシュの箱を奪い合った。
だが衝撃はこれだけに収まらなかった。
「おっさんずラブ」というドラマが隠し持った真の核はまだ姿を現してはいなかった。
史上最大最強のラスボス、人類がこれまでかつて目にしたことのない脅威の最終大量破壊兵器は、物語の最後にラオウかよというブリザードを背負ってズゥオオオオンと現れた。
牧凌太である。
恋に、落ちた、牧凌太である。
林遣都演じる牧凌太は、物語の早い場面で早々に登場した。
春田家で同居を始める後輩社員。
実を言うと、初回の途中までは、あ、林ケントくん?えーと、あの人たちと良く間違えるんだよね、ソメタニくん?イケマツくん?覚えらんないんだよね〜、アラでもスーツ着るとカッコいいのね〜、くらいなもんだった。
映画やドラマを見てももう中の人に余り興味を持てない疲れた会社員である。
正直、滑り出しはそのレベルだったのだ。
それがどうした。
物語が進むにつれ、牧凌太が纏う空気は目に見えて変化していった。仕草が、表情が、彼を取り巻く空気が、だんだんと湿気を増し、
50分という短い放送時間の間にも温かく、柔らかく、キラキラと小さな光の粒を纏っていくのが、人生◯10年、コイとか最後にいつしたよ〜?という私の濁った目にもハッキリと見えた。
なんだコレ。どきどきするんですけど。
え?私この歳でもう動悸息切れな感じ?
牧くん?えっ?あっぶちょーを見る目!
あっ、そこからの営業日誌!
ヤバい!ヤバい!ヤババババーン!!!!!
ラスト、
シャワー中の春田の前にずぶ濡れで飛び込んだ牧凌太は、その瞳の潤みは、明らかに叫んでいた。
「恋に落ちました!!!」
そしてそのカミナリは真っ直ぐに私のドタマをカチ割った。トドメはそこからの伝説の名セリフ「巨根じゃダメですか」アーンド壁ドンシャワーちゅー!
お姉さん、灰(꒪ཀ꒪)である。
そのまま、第1話は終わった。
少々の時間を要したのち、
我に帰った私は混乱していた。
何これ!
何これ!
とんでもないものを見てしまった!!!!!
ヤバいぞこれ!
どうするこれ!
(勿論どうしようもない)
(動悸息切れも止まらない)
落ち着いて考えた。
いや、考えようと努力した。
ただのラブコメではない。
可愛いとか切ないだけでもない。
なんだろう、何がこんなに私の胸をウズウズもやもやとササクレ立たせるのだろう。
この段階でその答えは全くその姿を現さなかった。
すぐ次週の録画を予約した。
第1話を録っていないドラマの2話目以降をわざわざ録るなんて生まれて初めてだ。
だがしかし、これは見届けねばならないドラマだ。そう思った。
それが何かはわからないが、今、私の中で何かが起こっている。
よくわからない衝動の中、今見たとんでもないものをもう一度確認したいという気持ちがムクムクと湧いたが、そんな流れなので無論録画などしていない。
速攻、噂に聞いたことはあるがカケラも興味がなかった「てぃーばー」というものについてググり、眠たがる息子の尻を引っ叩いてアプリを落としてもらった。そこからすぐさま1話を頭から見返した。何度も何度も繰り返して見た。
次の土曜?何日だ???
長い1週間が始まった。