常識を、壊す。実にAppleらしい、新鮮な伝記ドラマだ。
本作は、詩人エミリー・ディキンソンの若き日を描いたもの。生前は無名だったが、死後に作品が発表されると世界中で激賞を浴びたドラマティックな人物だ。彼女の名前は今も、文学史に燦然と輝いている。
ただ、この作品は彼女の青春を文学的に畏って描いてはいない。むしろその逆で、書くことが大好きで自由を愛し、お行儀が悪くてお転婆で、窮屈なオリの中でもがいている非常に現代的なヒロインとして描いている。
主演に『スウィート17モンスター』や『はじまりのうた』『バンブルビー』のヘイリー・スタインフェルドを起用した点も上手い。彼女は世界的な...
常識を、壊す。実にAppleらしい、新鮮な伝記ドラマだ。
本作は、詩人エミリー・ディキンソンの若き日を描いたもの。生前は無名だったが、死後に作品が発表されると世界中で激賞を浴びたドラマティックな人物だ。彼女の名前は今も、文学史に燦然と輝いている。
ただ、この作品は彼女の青春を文学的に畏って描いてはいない。むしろその逆で、書くことが大好きで自由を愛し、お行儀が悪くてお転婆で、窮屈なオリの中でもがいている非常に現代的なヒロインとして描いている。
主演に『スウィート17モンスター』や『はじまりのうた』『バンブルビー』のヘイリー・スタインフェルドを起用した点も上手い。彼女は世界的なシンガーでありながら、「くすぶっている女子」を演じるのが抜群にハマっているのだ。監督は、デヴィッド・ゴードン・グリーン。『ボストン・ストロング』『ハロウィン』等、注目作を手掛ける俊英だ。この2つの若き才能が混ぜ合わさった『ディキンスン ~若き女性詩人の憂鬱~』は、実に新しい。
劇中ではヒップホップが流れ、歴史ものとのギャップが痛快。エミリーの妄想の世界が具現化された「死の使い」が乗る馬車は、『ハリー・ポッター』的ファンタジーの要素が入り、あっけらかんとLGBTQの描写がなされる。結婚を強要され、家事ばかりさせられる女性の立場の低さ、詩人としての才能がありながらも世に出ることを許されない不遇など、社会的なテーマも内包。何も隠すことなく、全部見せる。とても気持ちがいい。
たとえば、これ見よがしに「昔の人物を現代化しました!」という作りの作品ならきっと、鼻についてしまっただろう。だが本作は、作品に流れる感性自体が等身大で、嫌みがない。『ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語』と共に観るのも面白そうな一作だ。