たまたま新聞でこのドラマの告知を見て、演技派の池脇千鶴さんが主演される
ということ、そして、物語の趣旨に興味があって観ました。
いやー、泣いた。
クライマックスシーン良かったです。
40歳を迎える日に偶然飛び込んだ新しい世界。
30代までの人生の何もかもがうまくいかず、そんなとき
人生の先輩たちに「人生ここからよ」と励まされ、
「こんな誕生日は初めてです」と涙を流すシーン。
やはり池脇さんは裏切らない・・・。
性別関係なく、主人公「笛吹新」の現状に感情移入をしてしまいました。
でも、最初、池脇千鶴、え?太った?顔むくんでる?という印象が拭えず
完全にノーメイクのシーンもあり、「どうしたの?大丈夫か・・・」
と思って見始めました、が!これがなんと!
役の設定を見事に体現していて、物凄い役者魂に驚きました。
もしかして、映画「モンスター」のシャーリーズ・セロンとか
大河「西郷どん」の鈴木亮平みたいにわざと体重を増やしたの?
と思って観ています。逆に言うと、太ってたときにオファーが来たけど
やせないでそのまま出たれっみたいな状態だったのか。
どちらにしても、若い頃は可愛い系で売っていた池脇千鶴が、
中年に差し掛かって、本当に役者になったんだなって感じました。
もちろん若いときから演技はすごいものがある人でしたけど。
「美」で売るんじゃなくて「心」で売る。
そこをこんなに感じさせてくれる女優は、元々美形の人ではなかなかいない。
人生って何だろうって思う年齢になった池脇千鶴の
等身大の思いに心を打たれ、泣くわけないと思っていた自分の
涙腺をみごとに崩壊させてくれました。
主人公は、仕事も、恋愛も、お金も、何にもうまくいかない。
もう青年期も過ぎ、40歳を迎えようとして、おばさん扱いされる。
服も安物で、メイクすらろくにする余裕もない。
でも笛吹新は真面目で、倹約家で、優しい。
周りを恨んでひねくれて自分を貶めることもない。
もう華々しいキャリアも浮いた恋も大金も手にすることはないかもしれない。
そんなとき、公園でうずくまる老女に優しく声をかけ、自分もお金が
ないのに水やお茶を買ってあげたりする。
望みをかけロトみたいなのを買うが、その削る姿が何とも孤独で・・・
映画「嫌われ松子の一生」の中谷美紀を思い出しました。
そのロトみたいなのを削っていると、風で飛ばされ追いかけると
古いバーみたいな場所の前に。
求人の貼り紙の時給2000円、年齢40歳以上の文字に目を奪われ・・・
「以上?え?嘘」となる。週3で4.5H入って10万ちょっとだ!副業できる!
と勇気を出して扉を開けると、そこは老女ホステスたちが働くキャバレーで。
しかもママは、なんと公園で助けた老女で・・・!
と物語は展開する。
ありきたりのように見えて、奥はかなり深いドラマだと思いました。
(脇を固めるホステス役の久本雅美さんから慈愛が溢れていて良かったです)
このドラマは間違いなく今の日本を映してます。
今40歳前後の世代は、就職氷河期の嵐に飲まれた世代です。
働きたくても働けない時代でした。今、コロナ禍でそうなりつつあるが、
あのときはどんな業種もダメだった。
恋愛らしいことを何もせずにあっという間に終わった二十代(青春)。
仕事に翻弄された三十代。
40歳過ぎたら、甘い恋愛なんて夢も見れない。
誰もそういう目で見てくれない。
そんな同世代たちの二十年間を自転車の乗り方ひとつで表現する池脇千鶴。
そして、勇気を出して新しい世界に飛び込んだ主人公・新。
老女ホステスばかりだから、客から「ギャルだね」「ピチピチだね」と
褒められる。老女好きな青年からは「若すぎて嫌だ」と言われる(笑)
夢のような時間を過ごした新は、今までの苦労を口にする。
すると先輩ホステスたちから冒頭のように「人生ここから」「大丈夫」
「40歳なんてまだまだ若い」「いくらでもスタートできる」と励まされる。
このドラマは「これからどう生きようか」と思ってる人に観てもらいたいです。
「一人で生きていかないといけない」「何が人生の良さなのか」
と思わずにはいられない人は絶対に観て下さい。
新しい世界に飛び込むことも時には大事なんだな、今の目の前の仕事を大切にしつつ
別の収入源を確保することってこんなに安心なんだなと心の奥底から思わせてくれます。
そう、兼業・副業の大事さもこのドラマの趣旨なんですよ、きっと。
それは1話のラストシーン。
ウキウキし始めた新の言葉を勘違いした同僚たちは、新が「ホストクラブ」
にはまっていると思ってしまい、みんなが心配する。
「お金出しちゃいけないよ」「ホストの甘い言葉に乗せられたらダメ」
「借金なんかしたらダメだよ」「今日店来てよって電話がしつこいよ」と。
そこへ新の携帯にお店のマスターから電話が。
「今日も入ってくれない?」と。
つまり、新の実情は同僚の心配とは全く逆なのだ。
時給2000円の立派な仕事の依頼の電話なのだ。
ここが痛快でしたね。
新はこれから暮らしに必要な「お金」と心に必要な「自信」を
手にしていくと思われますが、頑張って欲しい。
池脇千鶴さんのいろんな意味で「演じてない演技」が今作でもすごいです。
まさしく「オトナの土ドラ」だけあって、人生経験を一周してきた人が
観るためのドラマです。
しかもリア充とは対極にいる大人のためのドラマです。
泣いたらだめだ、泣いたらだめだと思いながら、泣いてしまったのは
本当に久々でした。
濡れた顔を拭くためにティッシュの箱を慌てて取りに行ったのも久々でした。
もう目が離せません。
正直、めちゃめちゃ期待していたわけじゃなかったんですが、
僕もこのドラマの扉を開いて良かったです。
最後まで見守りますよ。